アオイタクト先輩、B社の今月の入力で、どうしても税区分が決められないものがあるんです。
タクト先輩どれかな。
アオイ海外のバイヤーから受け取った手付金30万円です。バイヤーの都合でキャンセルになって、契約どおり手付金は返していません。車は輸出していないので、輸出許可書もありません。
アオイ車を売ったわけではないので免税売上とも言えないし、かといって不課税でいいのかも自信がなくて…。入門書を読んでも、ぴったりの例が見つからないんです。不勉強ですみません。
タクト先輩いや、それは不勉強じゃないよ。実務だと、規定にぴったり当てはまらない取引って結構あるんだ。じゃあまず、事実を一旦並べてみて、税務上の整理をしてみようか。
アオイ「整理」…ですか?
タクト先輩そう、整理。この業界では毎年流行語大賞の言葉だよ。
ポイント
- 規定にぴったり当てはまらない取引は、実務では珍しくない。ぴったりの答えが見つからないのは、不勉強のせいではない。
- 事実を並べ、規定の要件に当てはめて判断することを「整理」と呼ぶ。判断と根拠はメモに残し、税務調査に備える。
- 答えが一つに決まらない問題なので、年次に関係なく、事実と税法に基づいた意見なら聞いてもらえる。
1「整理」は毎日聞く言葉
会計事務所や会社の経理に入ると、「整理」という言葉を1日に何度も聞いて驚くと思います。「この取引はこういう整理で、この処理で申告しよう」「こういう整理でいきたいと思うんですが、先輩どうですか」といった具合です。
税法の規定は、世の中のすべての取引を書き尽くしているわけではありません。少し複雑なビジネスや特殊な取引が出てくると、どの規定にもぴったりとは当てはまらないことがあります。
そういうときは、まず事実を並べます。この取引は、こういう取引先と、こういう条件で、こういう納品物で行った。だからこの規定が適用できると判断した。この判断の組み立てが「整理」です。
100%の自信はなくても、判断はしなければ申告できません。そこで、どう整理したかをメモに残しておきます。「イシューメモ」と呼ばれるもので、イシューは英語の issue、論点という意味です。こうした税務の問題(tax issue)に取り組むこと自体を、「イシューアタック」と呼んだりもします。
イシューメモは、税務調査でどう説明するかを考えながら書くものです。調査官からどんな指摘が来そうか、それに対してどんな抗弁ができるかを想定して、判断と根拠をまとめておきます。
税務調査で問題になるのは、たいていこういう取引です。調査では「こういう事実なので、こう整理しました」と調査官に説明して、戦うことになります。
2まず事実を並べる
今回のB社の取引を、事実だけ並べてみます。
- B社は、海外のバイヤーと中古車1台の売買契約を結んだ
- 契約のときに、手付金30万円を受け取った
- B社は契約に基づいて、バイヤーに引き渡すために車を整備し、船の予約も入れた
- 船積みの前に、バイヤーの都合で契約が解約された
- 契約書には「買い手の都合で解約した場合、手付金は返さない」とだけ書いてあり、内訳はない
- 車は輸出していないので、輸出許可書はない
ここで大事なのは、意見や結論を混ぜずに、契約書やメール、整備の記録で確かめられることだけを書くことです。このあとの判断は、すべてこの事実の上に立ちます。
3規定に当てはめる
返さなかった30万円の税区分は、候補が3つ考えられます。
- 不課税:解約されたことによる損害の穴埋めと見る考え方。損害賠償金は、物やサービスの対価ではないので課税対象外です。消費税法基本通達5-2-5と5-5-2にも、損害賠償金や、キャンセル料・解約損害金は対価に当たらないと書かれています。
- 課税売上10%:B社がした整備の対価と見る考え方。同じ通達5-5-2では、解約手数料のように、解約の請求に応じて行うサービスの対価は課税になるとされています。
- 免税売上:整備の対価だとしても、相手は海外のバイヤーです。非居住者へのサービスの提供として、免税になる可能性があります。
契約書に内訳がないので、どれか一つにすんなりとは決まりません。そこで、次のように整理しました。
整理:整備は、売買契約に基づいてバイヤーに対して行ったサービスである。整備をした時点では、車は輸出して海外で使われる予定だった。行為の時点で判断し、非居住者へのサービスの提供として免税売上とする。金額は、B社がふだん整備を請け負うときの価格を使う。残りの金額は、解約による逸失利益の補填として不課税とする。
全部を不課税にすれば、話は簡単です。それでも整備の部分を切り出すのは、課税売上割合のためです。免税売上は、課税売上割合の分子にも分母にも入ります。不課税はどちらにも入りません。免税売上を立てると課税売上割合が上がるので、仕入税額控除の計算上、有利になります。
実際のイシューメモには、契約書、キャンセルのメール、整備の記録を根拠資料として添えます。
正直に言うと、これは少し攻めた整理です。ただし、攻めるといっても、事実と規定から筋の通った説明ができる範囲での話です。高額な案件であれば、最後はお客さんに税務リスクをお伝えしたうえで決めます。
次の節で、調査官からどんな反論が来そうかを見てみましょう。
4調査官の反論にどう答えるか
税務調査では、たとえば次のようなやり取りが考えられます。
| 論点 | 調査官の反論 | 会計事務所の抗弁 |
|---|---|---|
| 誰へのサービスか | 車はまだB社のもの。自分の在庫を整備しただけではないか | 整備の時点で売買契約は結ばれていた。その契約に基づいて、バイヤーに対して行った整備である |
| 国内で完結していないか | 国内にある車への整備なので、国内で完結したサービスとして10%ではないか | 消費税法施行令第17条第2項第7号が、国内で完結するサービスとして挙げているのは、国内にある資産の運送や保管。本件の車は海外で使う予定の車であり、この規定が想定している資産とは性質が異なると考える |
| 金額の分け方 | 契約書に内訳がないのに、ふだんの価格で分けてよいのか | 免税のサービスが実際にある以上、何かしら価格をつける必要がある。契約書に内訳がない以上、ふだんのサービス価格が最も客観的な数字である |
どの抗弁も、事実と規定の言葉に則って答えています。「そうしたかったから」では抗弁になりません。だからこそ、最初に事実をきちんと並べておくことが大事になります。
ただし、2つ目の抗弁には弱点があります。施行令第17条第2項第7号は、運送や保管、飲食や宿泊のほかに、「これらに準ずるもので、国内において直接便益を享受するもの」も免税にならないとしています。国内にある車を整備したのだから便益は国内で受けている、しかも車は結局輸出されていない、と言われると、反論は簡単ではありません。これが「少し攻めた整理」と書いた理由です。
5先に税務署に相談するという道もある
今回は30万円なので、自分たちの整理で申告します。でも金額がとても大きいときは、申告の前に税務署に相談して、確かめておくこともあります。
ただし、職員によって回答が違うことがあります。また、税務署に聞くと、税金が一番多くなる保守的な答えが返ってきやすいです。今回なら、30万円を全部課税売上10%にする処理です。この場合、30万円に含まれる消費税、約2万7千円を納めることになります。整理どおりなら、この30万円にかかる消費税はゼロです。
自分たちの整理でいくか、先に相談するかは、金額の大きさと、事務所やお客さんがどこまで税務リスクを取れるかで決めます。「この額なら税務リスクを取って攻めてみよう」と判断するところまで含めて、整理の仕事です。
6整理は面白い
整理をするには、税法の知識だけでなく、お客さんのビジネスを理解することも必要です。答えがぴったり決まらない問題なので、上司も下の意見をよく聞いてくれます。専門職なので、年齢よりも、事実と税法をもとに納得感のある整理かどうかで成果物が判断されます。その意味では上司と対等とも言えますし、それだけプロ意識が求められる仕事でもあります。
規定にぴったり当てはまらない取引に出会っても、それは不勉強だからではありません。どうしてもそういう取引はあり、そこにこそ人間の役割があります。整理をつけること、そしてそのあとの税務調査で説明することは、この業界で人間に残る仕事の一つです。
整理は、この業界の中では珍しくクリエイティブな仕事だと思います。整理が必要な難しい取引が出てきたら、勉強になると思ってぜひ楽しんでください。
アオイタクト先輩、手付金の件、事実を並べて整理してみました。整備の部分はふだんの価格で免税売上、残りは不課税という整理でいきたいと思うんですが、どうでしょうか。
タクト先輩いいね。じゃあ調査官のつもりで聞くよ。車はまだB社のものだったよね。自分の在庫を整備しただけじゃないの?
アオイ整備したときにはもう売買契約があって、その契約に基づいてバイヤーのために整備しています。契約書とメールをメモに添えてあります。
タクト先輩ちゃんと答えられたね。エビデンスがはっきりしていて筋も通っているので、30万円ならこれでいこう。これが30億円の話だったら、先に税務署に相談していたかもね。
アオイ整理って、答えを探すんじゃなくて、自分で筋道を立てることなんですね。ちょっと面白くなってきました!