アオイタクト先輩、B社の今月の仕入れを入力しています。1点気になったんですが、整備工場から届いた修理代の請求書に「T」から始まる番号がありません。ほかの請求書には全部書いてあるのに。
タクト先輩お、いいところに気づいたね。それは登録番号といって、インボイスかどうかを見分ける番号なんだ。
アオイインボイス…。ニュースでよく聞いた言葉です。あと、個人のお客さんから車を買い取った分は、そもそも請求書がありません。買取の書類だけです。
タクト先輩前に税区分を調べてもらったとき、個人からの車の買い取りは課税仕入10%になる、という話をしたよね。実はインボイス制度という大きな制度体系の中で、個人からの買取は例外的な位置付けなんだ。
アオイ(請求書がないのに引けるのかな…?まずは自分で調べてみよう。)はい、調べてみます!
ポイント
- 仕入れの消費税を引くには、原則として、インボイスと帳簿の両方を保存する必要がある。
- インボイスを発行できるのは、税務署に登録した事業者だけ。登録しているかは登録番号で確かめられる。
- インボイスがなくても、帳簿だけで引ける例外がある。古物商のB社が個人から車を買い取る場合も、その一つ。
1インボイスは何のためにあるか
仕入れの消費税を引く仕組み
会社が納める消費税は、ざっくり言うと、売上で預かった消費税から、仕入れや経費で払った消費税を引いた金額です。この「引く」ことを、仕入税額控除と呼びます。
たとえばB社が、国内の中古車販売店に車を110万円で売ったとします。そのうち10万円は、お客さんから預かった消費税です。その車を仕入れたときに88万円を払っていれば、そのうち8万円は、B社が払った消費税です。B社が納めるのは、10万円から8万円を引いた2万円になります。
この仕入税額控除の根拠取引を証明するための様々な書類要件を、インボイス制度で定めています。いったいどのような目的で設けられたかを確認しましょう。
益税の廃止
売上が小規模である免税事業者は、預かった消費税を納める必要がありません。他方、仕入税額控除について、免税事業者からの仕入れと免税事業者以外からの仕入れを区別する要求はインボイス制度以前は存在しませんでした。したがって免税事業者との取引については、免税事業者からの納付が無いにも関わらず、仕入れ側に仕入税額控除を認めていました。さながら、国から免税事業者へ消費税が寄附されているような状況でした。この免税事業者の懐に入ってしまう消費税を(免税事業者の利)益(となる)税と呼びます。インボイス制度は、この益税をなくすための仕組みです。
複数税率
今、税率が8%と10%の2つありますね。食料品などは8%の軽減税率なので、一枚の請求書に2つの税率が混ざることがあります。どちらの税率で、消費税がいくらなのかを、売り手に書いてもらう必要があります。
取引の透明化
3つ目の理由は、取引の透明化です。
本来、取引の透明化は目的ではなく単なる副次的効果なのですが、インボイス制度は取引の透明化に大きく寄与しています。
消費税8%,10%の対象となる限り、インボイス制度の縛りを受けるため、複雑な取引(例えば特許の交換取引など)のコアな情報が書面でより詳細に残されるようになりました。これにより、法人税の税務調査でも、国税と納税者が議論しやすくなりました。
2インボイスの見方
仕入税額控除を受けるには、原則として、帳簿とインボイス(適格請求書)の両方を保存しなければなりません。帳簿には、相手の名前、取引の日付、取引の内容、金額を書きます。会計ソフトに入力した仕訳が、この帳簿に当たります。インボイスだけ、帳簿だけでは足りない、というのが原則です。
インボイスには、書いてあるべきことが決められています。名前が「請求書」でも「納品書」でも「領収書」でも、次のことが書いてあればインボイスになります。
- 売り手の名前と登録番号
- 取引の日付
- 取引の内容。8%の軽減税率のものがあれば、その旨
- 税率ごとに分けた合計金額と、税率
- 税率ごとの消費税額
- 買い手の名前
登録番号は、「T」のあとに13桁の数字が続く形です。会社なら、Tのあとに法人番号が入ります。
なお、コンビニ・タクシーのように不特定多数を相手にする事業者は、買い手の名前などを省いた簡易インボイスを出すことができます。
会計事務所で見るのはこの簡易インボイス(適格簡易請求書)が圧倒的に多いと思います。
コンビニで店員さんが逐一お客さんに「お客さんは事業者ですか?ああそうですか、ではインボイス制度の要求に基づき「6.買い手の名前」を印字しますので、ご教示ください・・・」みたいなやりとりは現実的じゃないですよね?
なので、簡易インボイスのような救済制度が設けられています。
簡易インボイスに書いてあるべきことは、次の通りです。インボイスとの違いは、買い手の名前がいらないことと、税率と消費税額はどちらか一方でよいことです。
- 売り手の名前と登録番号
- 取引の日付
- 取引の内容。8%の軽減税率のものがあれば、その旨
- 税率ごとに分けた合計金額
- 税率ごとの消費税額か、税率のどちらか
また複数の書類を一体で一のインボイスとすることも可能です。
例えばオフィス家賃の引き落としであれば、インボイスの記載事項のうち2の取引の日付だけは通帳に記載された日付で満たし、それ以外は契約書で満たすという整理が可能です。
その他にも、実務に飛び込んでみると細かい疑問がたくさん出てきます。
以下の国税庁から配信されているQAが実務家にとってはバイブルです。
昔は100も無かったと思うのですが、どんどん増えています。
数年実務経験を積むと、だいたいどの記事も「あーこれも前も見たな」となります笑
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_invoice_mokuji.htm
3登録していない相手からの仕入れ
原則として引けない
冒頭の整備工場は、登録番号がありませんでした。登録するかどうかは本人が選べるので、登録しない事業者もいます。登録していない相手は、インボイスを発行できません。
インボイスがないので、原則として、その修理代の消費税は引けません。
経過措置で一部は引ける
ただ、制度が始まっていきなりゼロにすると、免税事業者と取引している会社への影響が大きすぎます。そこで、一定の期間は、消費税の一部を引いてよいことになっています。これを経過措置と呼びます。
経過措置は、令和8年度の税制改正で見直されました。今の決まりは次の通りです。
| 期間 | 引ける割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以降 | 引けない |
この記事を書いている2026年11月は、70%の期間です。整備工場への修理代が11万円なら、消費税1万円のうち7,000円を引けます。
経過措置を使うには、帳簿に経過措置の対象であることを書き、区分記載請求書を保存しておく必要があります。また、同じ相手から1年間に1億円を超えて仕入れると、超えた部分には経過措置を使えません。
区分記載請求書に書いてあるべきことは、次の通りです。インボイスと違って、登録番号と消費税額は書かれていなくてもかまいません。
- 売り手の名前
- 取引の日付
- 取引の内容。8%の軽減税率のものがあれば、その旨
- 税率ごとに分けた合計金額。税込みの金額
- 買い手の名前
3の軽減税率の旨と4の税率ごとの合計金額が書かれていないときは、買い手が自分で書き足してよいことになっています。
結果的にインボイス制度関連ではまず3つの様式①適格請求書②適格簡易請求書③区分記載請求書を覚える必要があります。
他にもインボイス制度で新たに登場した書類の概念がいくつかありますが、これは実務に携わるなかで覚えていけば大丈夫です。
入力するときの税区分
会計ソフトには、経過措置用の税区分が用意されていることが多いです。たとえば「課税仕入10% 70%控除」のような区分です。登録していない相手からの仕入れには、この区分を選びます。
普通の「課税仕入10%」で入れてしまうと、消費税を全額引く計算になり、納める消費税が少なくなってしまい、絶対アウトなミスです。登録番号のない請求書を見たら、税区分を変える合図だと覚えておきましょう。
4インボイスがなくても引ける例外
古物商が個人から買い取る場合
では、個人のお客さんから車を買い取った分はどうでしょうか。個人のお客さんは、ほとんどが登録していません。そもそも事業者ではなく、ただの消費者として車を売っていることも多いです。その場合登録番号を持っていませんから、インボイスは当然発行されません。
ここで、前回の記事の「鏡写しの例外」を思い出してください。B社は、売り手が事業として売ったと仮定して、課税仕入10%で計上するのでした。
さらに、消費税法には、インボイスがなくても帳簿だけで引ける例外が決められています。その一つが、古物商の特例です。古物営業法の許可を受けた古物商が、登録していない人から、売るための中古品を買い取った場合は、帳簿を保存するだけで消費税を引けます。B社は古物商の許可を受けて中古車を扱っているので、これに当たります。
この特例を使うには、帳簿にいつもの内容に加えて、次の二つを書きます。
- 古物商の特例の対象であること
- 売り手の住所
車の買い取りでは、古物営業法でも、売り手の本人確認と記録が求められています。B社が買取のときに作る書類に住所が残っているので、それを帳簿にも書けば足ります。
なお、売り手の個人が登録している事業者だった場合は、この特例は使えません。インボイスをもらって保存します。
ほかにもある、帳簿だけで引ける取引
古物商のほかにも、インボイスをもらうのが難しい取引は、帳簿だけで引けることになっています。会計事務所でよく見るのは次のようなものです。
- 3万円未満の電車やバスの運賃
- 3万円未満の自動販売機での買い物
- 郵便ポストに出した郵便の料金
- 従業員に払う出張旅費や通勤手当
切符を買うたびにインボイスをもらうのは現実的ではありませんよね。こうした取引は、帳簿に特例の対象であることを書いておけば、消費税を引けます。
入力のまとめ
B社の今月の仕入れをまとめると、こうなります。
| 取引 | インボイス | 税区分 |
|---|---|---|
| 国内の業者からの車の仕入れ | あり | 課税仕入10% |
| 個人のお客さんからの車の買い取り | なし。古物商の特例 | 課税仕入10%。帳簿に特例の対象であることと住所を書く |
| 登録していない整備工場への修理代 | なし | 課税仕入10% 70%控除 |
| 従業員の電車代 | なし。帳簿だけで引ける例外 | 課税仕入10%。帳簿に特例の対象であることを書く |
アオイタクト先輩、B社の今月の仕入れを入力しました。整備工場の修理代は、登録番号がなかったので「課税仕入10% 70%控除」にしています。
アオイ車の買い取りは古物商の特例に当たるので、帳簿に特例の対象であることと、売り手の住所を書きました。整備工場の件は、質問リストにも入れてあります。
タクト先輩経過措置制度を知っているんだね、対応ありがとう。整備工場は、これから登録する予定があるかもしれないから、社長に聞いてもらうようにお願いしよう。登録してくれれば、来月からは全額引けるようになるからね。
インボイス関連の記載事項は色々あるけど、まずはT番号の有無をチェックするのが一番早いよ。
アオイはい!これからは請求書を見たら、まず登録番号を探します。