顧問先から届いた紙袋を開けると、請求書や領収書、納品書がぎっしり。日付も取引先もばらばらで、何から手をつければよいのか、一見しただけでは分かりません。
アオイうわあ、袋いっぱいですね……。これを全部、帳簿にするんですか?
タクト先輩そう。社長が経理も兼任している会社だと、営業や現場の仕事を優先して、資料の整理まで手が回らないことも多いんだ。
アオイ社長が資料をためてしまうのは、経理が苦手だからですか?
タクト先輩それだけじゃないよ。特にスタートアップでは、社長自身が営業を担っていることも珍しくない。営業畑から経営者になった人にとって、経理は初めての仕事かもしれない。忙しいなかで、何をいつまでにどう整理すればいいのか分からないこともあるんだ。
アオイじゃあ、資料をくださいと伝えるだけでは、なかなか進まないこともありそうですね。
タクト先輩そうだね。相手に負担をかけないよう、必要な資料と理由を具体的に伝えたり、次から整理しやすい方法を一緒に考えたりする。数字を作るだけでなく、社長が自分の会社の数字に向き合えるよう支えるのも、私たちの仕事なんだ。
ポイント
- 資料がたまるのは、だらしないからではなく、経理に使える時間や知識が足りないからかもしれない。
- 実務は整理された問題ではなく、散らかった証憑から始まる。集める・分ける・確かめる・記録するの順に進める。
- 分からない取引は決めつけず、何が分かっていて何を知りたいのかを整理して質問する。
1資料がたまるのには理由がある
社長が経理を兼任している会社では、売上をつくる仕事やお客さまへの対応が優先され、請求書や領収書の整理が後回しになりがちです。特にスタートアップでは、社長が営業や商品づくり、採用などを幅広く担い、経理の経験がほとんどないこともあります。資料がまとまっていないのは、単に「だらしない」からではなく、経理に使える時間や知識が足りないためかもしれません。
そこで大切なのは、資料を出してもらうよう一方的に求めることではありません。どの資料が必要なのか、なぜ必要なのかを相手に分かる言葉で伝え、無理なく続けられる整理の仕方を考えます。一度に完璧な処理を求めるのではなく、まずはできるところから一緒に整えていく姿勢が、社長の負担を軽くします。
資料が整うと、会社のお金の動きが見えやすくなります。数字を見ながら、売上や経費の状況を確認したり、社長が気になっていることを一緒に考えたりすることもできます。相手の立場に立って、数字と向き合うきっかけをつくれる担当者は、社長から信頼され、頼りにされます。
2試験との違い
簿記の試験では、取引の内容が文章で整理され、必要な金額や条件も問題文に書かれています。受験者は、その情報を読んで仕訳を考えます。何を見ればよいのかが、最初からある程度はっきりしているのです。
実務では、請求書や領収書、納品書、通帳やカードの明細など、形も内容も異なる資料を見ながら取引を読み解きます。書類が日付順に並んでいるとは限りませんし、資料だけでは用途が分からないこともあります。どの会社のどんな取引なのか、何が確認できていて何が不足しているのかを考え、必要に応じて先輩や顧問先に確認します。
つまり、実務は整理された問題を解くところからではなく、整理されていない証憑から始まります。簿記で学んだ知識を使う前に、まず事実を見つけ、情報を整理する必要があるのです。
3資料整理の手順
会計の仕事でいう資料整理は、書類をきれいに並べることだけではありません。資料に書かれた事実を確かめ、取引の内容を理解し、帳簿に記録できる状態にしていくことです。大まかには、次のような流れで進みます。
- 集める:請求書や領収書など、取引を確認するための資料をそろえる。
- 分ける:日付や取引先、資料の種類などを手がかりに、確認しやすくする。
- 確かめる:金額や内容を照らし合わせ、分からない点や不足があれば確認する。
- 記録する:確認できた取引を、会計のルールに沿って帳簿に記録する。
資料を見ただけで判断できないときは、分からないまま決めつけず、何を確認すればよいかを整理して質問します。こうして根拠を確かめてから記録することで、あとから数字の理由を説明しやすくなります。
4インターンで身につくこと
資料の整理を経験すると、簿記の問題で見ていた取引が、実際の会社の活動とどうつながっているのかを実感できます。請求書や領収書の一枚一枚が、商品を仕入れたことやサービスを提供したこと、会社のお金が動いたことを示す手がかりになります。書類を読み、取引の背景を考えることで、帳簿の数字が単なる記号ではなく、会社の仕事の記録だと分かってきます。
また、判断に迷ったときにすぐ答えを決めつけず、資料を見直し、分からない点を言葉にして質問する力も身につきます。社長や先輩に確認するときは、相手が答えやすいように、どこまで分かっていて何を知りたいのかを整理して伝えることが大切です。
会計の仕事には、知識だけでなく、相手の状況を想像して伝え方を工夫する力も必要です。資料を整え、数字を読み取り、経営者が次の判断をしやすいよう支える。その一連の流れを知ることは、会計事務所の仕事を学ぶインターンならではの経験になります。
5最後にもうひと”推し”!
会計の仕事は、散らかった証憑を帳簿にするだけではありません。資料を整理して会社の数字を見える形にし、社長が自分の会社の状況に向き合えるよう支える仕事です。
ACTインターンを通じて伝えたいのは、会計の実務には、簿記の知識を使う力と同じくらい、資料から事実を読み取る力や相手に寄り添って伝える力が必要だということです。紙袋いっぱいの書類を前にしたとき、そこから会社の仕事やお金の流れを読み解いていく。その経験が、会計の仕事の面白さを知る入り口になります。
アオイタクト先輩、紙袋の資料、月ごと・書類の種類ごとに分けて、確認できた取引はひととおり帳簿に入れました。
アオイ請求書はあるのに支払いの記録が見つからないものが2件、何に使ったか分からないカードの明細が1件ありました。質問リストにまとめて、それぞれ何を確認して分からなかったかも書いてあります。
タクト先輩助かるよ。分かったことと分からないことがきれいに分かれているから、社長にもそのまま聞けるね。
アオイそれと、社長が忙しくても続けられるように、月ごとに封筒を分けて、届いた書類をそこに入れるだけにしてもらうのはどうでしょう。
タクト先輩いい提案だね。次の打ち合わせで、質問リストと一緒に社長に話してみよう。整理のやり方を一緒に考えるところまでが、私たちの仕事だからね。
アオイはい!紙袋の中身が、少しずつ会社の動きに見えてきました。